概要
2021年7月3日、停滞前線の影響により静岡県熱海市で大規模な土石流が発生しました。熱海市で発生した土石流被害の状況を、当社の災害解析チームが解析を実施しました。観測データは、2021年6月上旬~7月上旬における約週1回の頻度で撮像されたSentinel-1SAR衛星データを使用しています。
解析手法
今回の解析ではSAR画像に加え、国土地理院が提供する土地被覆情報、及び、地形情報を用いています。解析には衛星からの電波の散乱強度(※1)やコヒーレンス値(※2)などのデータを活用しています。土地被覆に応じ、適用するアルゴリズムをピクセル毎に切り替えることで、都市部(住宅地)と非都市部双方に対して被害のあった場所の特徴を踏まえた推定を可能にしています。
(※1)散乱強度:SARセンサから照射されたマイクロ波が地表などの境界線で散乱すること。散乱強度は境界面の粗さの影響を受ける。
(※2)コヒーレンス:2つの異なる時期における衛星から照射されたマイクロ波が、その位相の揃い具合によりどの程度の干渉性(干渉のしやすさ)をもつかを表す。
解析結果
災害前後のSAR衛星画像を用いた当社のアルゴリズムによる解析結果(ピンク)と国土地理院が公表した被害を受けた場所(青)を表示しています。
実際の被害箇所(青)と解析結果(ピンク)がほぼ一致しており、土砂災害に対してSAR衛星データを用いた解析が有効であることがわかりました。一方で、SAR衛星解析からは被害箇所として特定したものの、実際の被害箇所と重なっていないポイントもあり、都市部と非都市部が入り乱れていることによるノイズが原因として考えられますので、これらを除去したより高精度な判定アルゴリズムを今後の検討課題としています。
まとめ
土石流の発生前後では上空に雲が発生している場合が多く、雨による土砂災害ではドローンや光学衛星が十分に使えないことも想定されます。今回の解析にて、悪天候下での災害発生時においては、夜間や天候の良し悪しの影響を受けないSAR衛星データを用いた結果が有効であることがわかりました。
Synspectiveは、独自の小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発・運用を行っており、すでに運用を開始した初号機を含め、2020年代後半までに30機の衛星コンステレーション構築を目指します。低軌道を周回する30機のコンステレーションにより、世界のどの地域で災害が発生しても、2時間以内に衛星が到達し観測することが可能となります。
従来の光学衛星や航空機・ドローンによる観測方法とは異なり、SAR衛星は全天候型の地上観測が可能なため、より広い範囲での地盤変動等を迅速に把握することが可能です。